「殺し屋イチ」@山本英夫

★★★★

1998年ー2001年

全10巻

 

●あらすじ(GEMINIより)

欲望と暴力が渦巻く街・新宿歌舞伎町。ある日、新宿を仕切るヤクザ・安生組の組長がマンションの一室から突如として姿を消し、残された部屋は凄惨な血液の海と化していた。組長捜索に乗り出したのは、全身にピアスを開け、異様なサディズムとマゾヒズムを併せ持つ組の若頭・垣原。彼は事件の陰に、常軌を逸した方法で人間を解体する凄腕の殺し屋がいることを察知する。

その殺し屋の正体は、普段は極度の泣き虫で小心者な青年・城石一(しろいし はじめ)。普段は自己主張もできない気弱なイジメられっ子であるイチだったが、陰で彼を操る謎の男「ジジイ」による洗脳とトラウマの刺激によってひとたび感情が爆発すると、状況は一変する。イチは涙を流しながら、足の甲に仕込んだ鋭利な刃物と圧倒的な身体能力を駆使し、ターゲットを容赦なく切り刻む極限の殺人マシーンへと変貌するのだった。

組長を失った極道社会の抗争が激化するなか、垣原はイチが残したあまりにも残酷で美しくすらある破壊の痕跡に魅せられていく。極上の「痛み」と「絶望」を渇望するドMの狂人・垣原にとって、自分を極限まで痛めつけ、死の恐怖を感じさせてくれるイチこそが探し求めていた理想の存在だったのだ。

ジジイたちの思惑によって歌舞伎町の裏社会が崩壊へと向かう中、自分自身の異常な暴力性に怯え苦悩するイチと、真の痛みを求めて執拗にイチを追い詰める垣原。トラウマと欲望に支配された二人の狂気が交錯するとき、歌舞伎町を舞台にした凄惨で退廃的なクライマックスへと物語は加速していく。人間の深層心理に潜む暴力性と歪んだ愛憎を容赦なくえぐり出す、アングラバイオレンスコミックの金字塔。

●感想

山本英夫先生のバイオレンス漫画の金字塔『殺し屋イチ』(全10巻)を読み切りました。

読み終わった直後の正直な感想は、「結局のところ、何がしたかったのかサッパリ分からない……けれど、めちゃくちゃ面白かった」という、なんとも不思議な敗北感です。

わけが分からないのに、読む手を止めさせない異常な推進力
ストーリーの軸としては、歌舞伎町を舞台にしたヤクザの抗争や謎の殺し屋を巡るサスペンスなのですが、登場人物がことごとく狂人ばかり。

泣きながら人を細切れにする超気弱な殺人マシーン「イチ」と、極上の痛みを求めてイチに異常な恋着を見せるドMヤクザ「垣原」。そして裏で糸を引く怪しすぎる「ジジイ」……。

展開やキャラクターの行動原理を理屈で理解しようとすると「??」となってしまう場面も多いのですが、とにかく描き込まれた心理描写と狂気のグラフィックの圧が凄まじく、気づけば一気に世界観へ引きずり込まれていました。

「わけが分からない」と思いながらもページをめくる手が全く止まらず、全10巻をあっという間に駆け抜けてしまった感覚です。

結局、何がしたかったのか?
最後まで読み通しても、物語のテーマや「救い」のようなものをスッキリ言語化するのは不可能です。

登場人物たちがそれぞれ自分の歪んだトラウマや欲望(性的嗜好や暴力性)に振り回され、勝手に自滅し、街を巻き込んで破滅していく様をただただ見せつけられたような気もします。

ですが、その「理屈や道徳では説明がつかない間の悪さや人間のグチャグチャした本能」を容赦なく描き切っているからこそ、他の作品にはない唯一無二のグルーヴ感が生まれているのかもしれません。

まとめ
グロテスクで歪んだバイオレンス描写が満載なので万人にオススメできる作品ではありませんし、読み終えたあとに爽やかな達成感があるわけでもありません。

それでも、「なんだかすごいものを読んでしまった」「アングラな狂気に気圧された」という強烈なインパクトを残してくれる一作でした。

エンタメとしての「分かりやすさ」とは真逆にある、圧倒的な劇薬のような漫画でした。

 

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